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最高裁医療過誤判例分析

因果関係に関する判例2

(1)判決日等 
H11.3.23
判時1677
P54~
破棄差戻

(2)発生時期等
H11.7
30歳女性

(3)事例
顔面痙攣の根治術である脳神経減圧手術を受けた後,間もなく患者が脳内血腫を生じ,その結果死亡した場合につき,脳内血腫の原因が右手術にあることを否定した原審の認定判断に違法があるとされた事例。

 S52 右側顔面痙攣罹患
 S57.5.17 神経減圧術施行
  am9:50 手術開始
  pm3:50 手術終了
 S57.5.18 血腫による閉鎖性水頭症となり危篤状態
 S57.7.20 意識回復せず死亡

(4)争点
脳内血腫を生じた原因は何か。医師の手術手技の誤りか,高血圧性脳内出血か。

(5)内容
顔面痙攣の根治手術は,小脳橋角部で顔面神経と脳動脈の接触部分を剥離するもので,生命にかかわる小脳内血腫,後頭部硬膜外血腫等を引き起こす可能性がある。
Aは術後間もなく,小脳上槽,小脳虫部の上部周辺及び第四脳室に血腫が生じ,小脳内血腫を起こしたことが認められる。遺体の病理解剖からもAの脳の病変が手術操作を行った側である小脳右半球に強く現れている。
Aの健康状態,本件手術の内容と操作部位,本件手術とAの病変との時間的近接性,神経減圧術から起こり得る術後合併症の内容とAの症状,血腫等の病変部位等の諸事実は,通常人をして,本件手術後間もなく発生したAの小脳内出血等は,本件手術中の何らかの操作上の誤りに起因するのではないかとの疑いを強く抱かされものというべきである。
原審は,本件手術操作の誤り以外の原因による脳内出血の可能性が否定できないことをもってAの脳内血腫が本件手術中の操作上の誤りや手術器具による血管の損傷の事実の具体的な立証までをも必要であるかのように判示しているのであって,Aの血腫の原因の認定にあたり前記の諸事実の評価を誤ったというべきである。

(6)ポイント等 
手術操作の誤りの有無が争点となる医療過誤訴訟において,一定の要件の下に過失を事実上推定し,立証責任を事実上転換して患者側の立証責任の軽減を図ったものと評価できる。

鑑定結果の体裁,形式等から問題点を指摘し,カルテや手術記録等の記載等を子細に検討した上,鑑定結果に直ちに依拠することはできず,疑問が残るとした点も評価できる。