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最高裁医療過誤判例分析

因果関係に関する判例3

(1)判決日等
H16.1.15
判時1853
P85~

(2)発生時期等
H11.7
30歳女性

(3)事例
スキルス胃がんにより死亡した患者について胃の内視鏡検査を実施した医師が適切な再検査を行っていれば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったとして医師に診療契約上の債務不履行責任があるとされた事例。

H11.7 胃内視鏡検査
 大量の食物残渣あり,十分観察できず。 慢性胃炎と診断。
H11.10 他院でスキルス胃がんと診断。骨への転移等あり。
H12.2 死亡

(4)争点
医師の過失(発見の遅れ)がなければAがその時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったか否か。

(5)内容
胃内視鏡検査時,胃の内部に大量の食物残渣が存在すること自体が異常をうかがわせる所見であり,当時の医療水準によれば,この場合,再度胃内視鏡検査を実施すべきであったにもかかわらず,医師には必要な再検査を実施しなかった過失がある。
医師に医療水準にかなった医療を行わなかった過失がある場合において,その過失と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないが,上記医療行為が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときには,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。このことは,診療契約上の債務不履行責任についても同様に解される。
再検査を行わなかったため,当時のAの病状は不明であるが,病状が進行した後に治療を開始するよりも,疾病に対する治療の開始が早期であればあるほど良好な治療効果を得ることができるのが通常である。化学療法等が奏功する可能性がなかったというのであればともかく,そのような事情の存在がうかがわれない本件では,Aのスキルス胃がんが発見され,適時に適切な治療が開始されていれば,Aが死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったというべきである。

(6)ポイント等
事例判断ではあるが,「相当程度の可能性」とは,どの程度の可能性をいうものであるかについて,一定の判断をしたもの。