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最高裁医療過誤判例分析

転医・転送義務に関する判例2

(1)判決日等 
H15.11.11
判時1845
P63

(2)発生時期等
S63.9
12歳男性

(3)事例
一 開業医に患者を高度な医療を施すことのできる適切な医療機関へ転送すべき義務があるとされた事例。
二 医師に患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った過失がある場合に於いて,上記転送が行われていたならば患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときの医師の不法行為責任の有無。

頭痛,発熱,頸部痛を訴えて受診上気道炎等と診断。
抗生物質等を投与 … 改善せず
翌日も薬増やす等の対応。
初診から4日後 … 大量の嘔吐
点滴等受けるもおさまらず。
5日後 … 意識混濁状態となる
総合病院に紹介状だす
急性脳症と診断
脳原性運動機能障害の後遺症

(4)争点
開業医である本件医師に転送義務を怠った過失があるか。

過失があるとして,重大な後遺症との間に因果関係が認められないとしても,
重大な後遺症を残さない相当程度の可能性が認められるか。

(5)内容
医師は,初診から4日後の時点で,病名は特定できないまでも,本件医院では検査及び治療の面で適切に対処することができない,急性脳症等を含む何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識することができた。
その時点で,直ちにAを診断した上で,急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処しうる,高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へAを転送し,適切な治療を受けさせるべき義務があった。
患者の診療に当たった医師が,過失により患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において,その転送義務に違反した行為と患者の重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも,適時に適切な医療機関への転送が行われ,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受けていたならば,患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。
(急性脳症の予後は一般に重篤,統計上,完全回復率が22.2%,残りの77.8%の中には,軽傷の者も含まれていると考えられることからすると,統計数値は,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性が存在することをうかがわせる事情があるというべきである。)

(6)ポイント
事例判断であるが,一般開業医の総合病院等への転送義務を論じたもの。

事例判断ではあるが,相当程度の可能性の法理を,患者に重大な後遺障害が残ったケースについても該当するとしたもの。
完全回復率22.2%は相当程度の可能性の存在をうかがわせる数値とし,相当程度の可能性についての考え方を具体的に示したものと言える。