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最高裁医療過誤判例分析

医療慣行と薬剤の添付文書に関する判例1

(1)判決日等
H8.1.23
判時1571
P57~
一部破棄
差戻

(2)発生時期等
S47.9
7歳 男性

(3)事例
医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項と医師の注意義務。

 S49.9.29 虫垂切除手術
  pm4:32 腰椎麻酔
    4:40 執刀開始
    4:45 虫垂根部牽引時
     A悪心を訴える
     脈拍以上,血圧低下
    4:47 心停止
    4:55 自発呼吸回復
      意識戻らず
    5:42 手術終了
  重度脳機能低下の後遺症残る

(4)争点
何が原因となって心停止が生じたのか。

患者側:
腰椎麻酔ショックを前提
① 麻酔実施前の措置誤り
② 開腹手術の着手時期
誤り
③ 麻酔実施後の血圧等の管理,監視義務懈怠
医師側:
迷走神経反射によるもので防止は不可能

(5)内容
人の生命及び健康を管理すべき義務に従事する者は,その業務の性質に照らし,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが,具体的な個々の案件において,債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは,一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。そして,この臨床医学の実践における医療水準は,全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく,診療に当たった当該医師の専門分野,所属する診療機関の性格,その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが,医療水準は,医師の注意義務の基準となるものであるから,平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく,医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって,医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。
 医薬品の添付文書の記載事項は,当該医薬品の危険性につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が,投与を受ける患者の安全を確保するために,これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから,医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず,それによって医療事故が発生した場合には,これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り,当該医師の過失が推定されるものというべきである。
 本件薬の能書きには,2分毎の血圧測定を行うとの記載があった。医師には5分毎に行うことを指示し,2分毎の血圧測定を行わなかった過失がある。この過失とAの脳機能低下症発症との間には因果関係がある。

(6)ポイント
添付文書に反して医薬品が使用された場合には,医師の過失が推定されるとして,立証責任の転換がはかられるとされた。