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介護事故判例分析

介護事故の判例 福島地裁白河支部判決平成15年6月3日

   汚物処理場での転倒事故について一部認容し537万円の支払いを命じた。
  <当事者>
   被告Yは、介護老人保健施設を営む社会福祉法人。原告Xは、Yに入所していた95歳の女性である。
  <事故の概要>
   Xは、本件事故発生10日前の時点で、介護保険等級において「要介護2」の認定が為されており、日中はトイレに赴くものの、夜間は居室に設置されたポータブルトイレを使用していた。Yにおいてはポータブルトイレの清掃を朝と夕方の一日2回行うことになっていた。ところが事故発生当日の清掃記録によると、午前5時の時点では処理が行われたものの、午後4時(事故の2時間前)には確認が行われず処理も為されていなかった。午後6時頃、Xが夕食を済ませて自室に戻ったところ、ポータブルトイレが清掃されていないことに気づき、自分で処理を行うことにした。トイレで排泄物を捨てた後、容器を洗おうとして隣接する汚物処理場に入ろうとしたところ、出入り口に存在していた高さ87ミリ×幅95ミリのコンクリート製凸状仕切りに足を引っかけて転倒した。この事故により、Xは右大腿骨頸部骨折の傷害を負い、入院加療68日間、通院加療31日間を要した。
  <裁判所の判断>
   Yの債務不履行責任につき、「居室内に置かれたポータブルトイレの中身が破棄・清掃されないままであれば、不自由な体であれ、老人がこれを運んで処理・清掃したいと考えるのは当然であるから、ポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務と本件事故との間に相当因果関係が認められる」。
   過失相殺については、Yは、介護要員に連絡して処理をしてもらうことが出来たと主張するが、「介護マニュアルの定めが遵守されていなかった本件施設の現状においては、Xら入所者がポータブルトイレの清掃を頼んだ場合に、本件施設職員が、直ちにかつ快く、その求めに応じて処理していたかどうかは不明である」。したがって、「本件において、原告に過失相殺を認めるべき事情はない」。
   工作物責任についても、「現に入所者が出入りすることがある本件処理場の出入り口に本件仕切りが存在するところ、その構造は、下肢の機能の低下している要介護老人の出入りに際して転倒等の危険を生じさせる形状の設備であるといわなければならない」として、民法717条による損害賠償責任も肯定。