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判例分析

判例分析介護事故の判例 山形地裁(請求棄却)

   被告は指定介護老人福祉施設
  <本件事故に至る経緯>
   利用者は事故当日の2週間前である平成22年2月18日から、被告が運営する「指定介護老人福祉施設」の提供するデイサービスを受けていた。
   平成22年3月4日(事故当日)
   8:40 自宅から相手方施設へ送迎。本人は意識があり、声掛けすると返答は見られた。車椅子に移乗する際もスタッフを掴んで移乗。
   9:20 相手方施設到着。
   9:50 リクライニングへ移乗行おうと声がけ行う。反応見られず、寝ている様子だったので二人介助にてリクライニングへ移乗行う。
   10:00 看護師がバイタルをチェックしたが、血圧116/91、体温36.9、脈拍89で特に異常は見られなかったが、全然起きる様子が見られず、入浴しないほうが良いとのことで家族(妻)へ報告行う。午前中はリクライニングにて寝ている。時折声掛け行い対応する。返答は聞かれず。
   11:30 リクライニングよりベッドへ移乗し、下着の交換、臀部(肛門)を洗浄し、薬を塗布する。その間何度か黒い排便見られる。その際、ピクッという反応と、軽い声だしは見られた。
   12:00 ホールへ戻り食事中だったが、起きる様子は見られず、食事はとらなかった。声掛けするが反応は見られず。そのまま過ごす。
   13:30 Ns帰宅。
   13:50 声がけし軽い声出し見られる。呼吸の確認は何度か行う。
   14:10 バイタル測定、血圧88/55、脈拍76とバイタル低くなる。引き続き声掛け行う。反応無し。引き続き寝ている。
   14:50 再びバイタル測定、血圧83/47、脈拍71と少し下がる。引き続き呼吸の確認は行う。
   15:10 何も口にしていないため、昼食後の服薬(狭心症を改善する薬)が出来ず、飲まなくてはいけないため、担当ケアマネージャーへその旨報告行う。報告後すぐに主治医へ連絡とるようにとのことで連絡する。家族(妻)にも報告行う。センター長にも報告行う。
   15:30 Dr到着。すぐに今日の様子を報告行い、診察。担当ケアマネージャーも到着される。診察終了し、反応なく危険な状態とのことですぐに119番通報する。あわせて家族(娘)へも連絡行う。
   16:00 救急隊到着。医師より詳しい状況を説明する。救急隊処置中も、反応が無く昏睡状態が続く。
   16:10 病院へ搬送される。搬送の際、再び救急隊及び娘へ状況報告行う。
   16:20 病院へ到着。すぐに処置室へ運ばれる。息子・妻と合流し、状況を説明する。その後、医師へ今日の状況を聞かれ報告する。待機中に家族よりいつからこの状態だったかと聞かれ、センター到着時より眠った状態が続いていたと答える。なぜもっと早く対応しなかったと聞かれ、寝ているものと判断したと答える。心臓の病気もあり、反応ない状態が続いたら、普通はすぐに対応すべきではないかと問われる。対応が遅かったのはセンターの判断が甘かったと答え、謝罪する。
   17:05 医師より血圧が100台に戻ってきたが、予断の許さない状態である。消化器系からの出血も見られるとのこと。
   17:30 医師より状況報告。消化器系より出血見られる部分は、少量の持続的出血だった。多量の場合は即死であったとのこと。すぐに手術をして出血を止めたいところだが、今の状態で手術をすると、命の危険性があるため行えない輸血によって状態が回復するのを待って処置行う。
   17:35 原因は大腸癌だと思われる。消化器系の出血箇所も、大腸癌から来るもの。輸血をして容態を安定させるために、そのまま入院となる。
    平成22年11月7日上行結腸癌で死亡。
  <原告の主張>
  1 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(以下「本件基準」という。)第11条1項は、「指定介護老人福祉施設は、施設サービス計画に基づき、入所者の要介護状態の軽減又は悪化の防止に資するよう、その者の心身の状況等に応じて、その者の処遇を妥当適切に行わなければならない。」とし、2項は「指定介護福祉施設サービスは、施設サービス計画に基づき、漫然かつ画一的なものとならないよう配慮して行わなければならない。」と規定する。
  2 入所者の健康管理について第18条は、「指定介護老人福祉施設の医師又は看護職員は、常に入所者の健康の状況に注意し、必要に応じて健康保持のための適切な措置を採らなければならない。」とする。
  3 被告作成の、「居宅サービス計画書」には、総合的な援助の方針として、「在宅医による定期訪問診療を受けることで、病状が把握でき安心して生活できるようになります。短期入所と通所介護を利用し、日常の介護を行い、看護師による病状管理を行います。緊急時は主治医との連携を図ります。」とも記載されている。
  4 利用者は事故当日の午前9時50分から搬送に至る午後4時ころまでの約6時間、ずっと意識がなく、介護担当者らの呼びかけに対しても反応しない状態が続いていた。2月18日に施設入所して以来、利用者は眠りについていたとしても介護者の声掛けに反応しなかったことは一度もなく、また昼食を欠かしたこともない。
また、心筋梗塞の既往を有しており、ワーファリン・アスピリンを常用している状態にあったが、このことは介護担当者も当然認識していた。介護担当者はなおさら利用者の状態について注意深く見守る必要があったというべきであるし、通常とは異なる事件当日の利用者の状態の異常性については認識すべきであった。
    このような状態の異常性に加えて、さらに14時10分には血圧は80台にまで低下しているのであるから、少なくともこの時点においては、主治医に報告をし、その健康状態について診断を求めるべきであった。そうであるにもかかわらず、意識レベルを確認することもなく、主治医や看護師に報告して指示を仰ぐこともしなかったことは、介助者が被介助者に対して負うべき適切な健康管理義務懈怠、心身への安全配慮義務懈怠に該当する。
<裁判所の判断>
    利用者は昼夜逆転ぎみの生活をしており日中は寝ていることが多かった。声がけに全く反応がなかったわけではない。従って施設職員が寝ていると誤解したことは致し方ない。血圧低下の程度もそれほど大きくないので意識レベルを確認する義務までは認められない。
<考察>
     寝ているのか意識レベルが低下しているのかの違いは、刺激に対する反応があるかどうか。意識レベルの低下を危惧した場合は身体を揺すりながら大声で声がけしてその反応をみるべき。それで目を開けるなどの反応がなければ意識レベル低下と判断して責任者、ケアマネ、主治医に連絡して指示を仰ぐべき。裁判所の判断は誤っていると思う。おそらく大腸癌で余命8ヶ月であった点を考慮して、安全配慮義務の程度を下げて判断したものと思われた。

介護事故裁判例  介護施設内での転倒事故で骨折
                     仙台弁護士会 弁護士 坂野智憲
仙台地方裁判所 平成20年(ワ)第34号 損害賠償請求事件
平成21年7月10日判決 勝訴 440万円の損害賠償を認める 
被害者   女性 80歳代
介護施設 短期生活介護事業所を設置する医療法人 
事案の概要
第1 当事者
1 原告○○は、○○短期生活介護事業所に入所中に転倒・骨折し、その後訴外○○病院において平成18年○月○日に死亡した故○○の次女、同○○はその三女である。
  原告らは、故○○の損害賠償請求権をそれぞれ3分の1ずつ相続した。
2 被告は、○○において、○○短期生活介護事業所を設置管理する医療法人である。
 
第2 転倒・骨折にいたる経過及びその後の経過
 1 ○○は、平成18年1月、インフルエンザ、肺炎で○○に入院したころから認知症の症状が出始めた。
   退院後○○医院の訪問介護を受けるようになった。
 2 同年3月から4月にかけて○○で検査を受けたところ、脳梗塞、加齢によるアルツハイマー型の認知症と診断された。
 3 同年8月後半から脱水症状となり訪問介護で点滴治療を受けた。点滴治療は回復後も1日1本を継続していた。
 4 同年10月に介護保険の要介護度が2から5に変更となった。
 5 同年10月3日、○○におけるショートステイのため○○談員による訪問調査(健康状態、生活サイクルなど)がなされた。
 6 同年10月4日から10月6日まで○○において1回目のショートステイをした。10月3日記入の利用申込書には、「重度認知症」、「精神状態は日常生活に支障をきたすような症状」、「意思疎通困難が頻繁にあり常時介護を必要とする」、「左耳聞こえない」と記載されている。
   退所時において○○らは目立った問題などの報告はなかった。ただ2~3日のステイでは慣れ始めたころに帰宅することとなるので次回からは最低1週間くらいのステイにしてほしいと要望された。しかし後日、当時の介護記録を見たところ次のとおりさまざまな問題行動があったことが記録されている。
 7 10月4日の介護記録
   出入り口探し、トビラをあけている。落ち着きなし。食後にタクシーやバスで帰りますと話す。他居室に入る。様子を見に行くと507号室で寝ている。507号室施錠。その後他利用者の対応していると今度はH様の居室で寝ているところを発見。全室施錠する。廊下を何度も歩かれ声がけするが意志疎通できない。所在確認強化。廊下を10往復。誰もいないじゃない帰るからと帰宅願望あり。再び廊下往復、階段前で立ち止まり下に行きたいといわれる。パーテーション持ってきて目隠しする。つかず離れず廊下歩行を見守る。ヨロッとすること多く、所在確認様子見強化。立ち上がって廊下歩いては食堂に戻るの繰り返し。一つずつの部屋の扉をあけようとする。
 8 10月5日の介護記録
   廊下を歩かれてトイレを探されたり、外靴を探されたりしている。家族が来て居室で談笑。家族が帰られるとさびしそう。家族から何の連絡もないと何度も話される。話をそらすがそのことしか頭にないみたい。他利用者510号室に入っているところ発見。非常階段のドアを開けようとしている。声かけるが全く頭に入らない。一つ一つドアを確認。512号室、511号室、510号室の居室を開けようとしている。0時に入眠。1時覚醒し徘徊。パニック気味。
 9 10月6日の介護記録
   何々がないとの訴えが多い。物を探したり娘様たちのことを口にする。他利用者と話すが落ち着きなし。クローゼット等の中の物探し。もうこんな時間なのになんで娘たちは来ないの。16時退所。
 10 10月28日の介護記録
   2回目のショートステイ開始。506号室入所。
   夜間トイレにおきてトイレから出た後居室と車椅子用トイレを間違う。
 11 10月29日の介護記録
   廊下をウロウロされ自分の居室わからなくなっていた様子。部屋の中の荷物をまとめている。帰りますとのこと。508号室で物を探している。22時30分に入眠確認。時折トイレに起きる。居室へその都度誘導。
 12 10月30日の介護記録
   帰宅願望、居室で荷物をまとめている。落ち着きなく部屋と食堂を行き来している。食堂に下着姿で来るがトイレ誘導後は居室に戻り入眠。廊下へ出てきたところで睡眠剤内服。その後動き多く、他利用者対応でいない隙に廊下のいすを動かして屋上へ行っている。2回繰り返したためパーテーションで目隠しする。1時まで徘徊。
 13 10月31日
   7時ころ居室でドンという物音。入り口付近(洗面所の前?)で転倒しているところを発見。今日家に帰る準備していたら押入れ(タンス)から落ちてしまったとのこと。腰痛、大腿部痛の訴えあり。
   14時30分、○○整形外科受診、右大腿骨転子部骨折と診断。○○整形外科で手術予定されるが、空き部屋ないため11月2日まで○○にいることになる。
 14 11月2日9時30分、○○退所し、○○整形外科入院。11月6日ころに手術予定。院長の説明では目標は歩くまで行かないが杖歩行まででもできるようにしたいとのこと。
   11月○日0時50分ころ呼吸困難、心停止、11月○日1時49分死亡。
   解剖せず、死因は未確定。脳幹部梗塞と推測された。
  
第3 過失(見守り、頻回の訪室、転落防止、問題行動報告義務違反)
 1 ○○は、○○に短期入所した時点で、重度認知症であり、その精神状態は日常生活に支障をきたすような症状、意志疎通困難が頻繁にあり常時介護を必要とする状態にあった。そして介護記録を見ると上記のとおり、他居室侵入、深夜徘徊、帰宅願望、クローゼットなどでのもの探しなどの問題行動を頻回に起こしていた。そのために○○においても所在確認強化、様子観察強化の対応をしていた。
   重症認知症患者の介護施設における事故で最も多いのは転倒及びベッド、いす等からの転落事故である。従って入所中の重症認知症患者に顕著な問題行動が認められた場合には、居室内を含む施設内での転倒、転落が予見されるのであるから、それを防ぐための処置を講じるべき義務がある。
   具体的には歩行時の見守り、居室への頻回の訪室、椅子等に上ろうとしないように手の届かない場所に所持品をおかないなどの予防措置が必要であった。そして施設としてなしうる通常の予防処置をとってもなお転倒、転落などが予想されるような問題行動が認められる場合には、そのことを家族などに知らせて引取りを要請すべきだった。
 2 本件では具体的にどのような歩行時の見守り、居室への訪室がなされていたのか詳らかではないが、知らない間に屋上に上がっていたり、他の居室に頻回に侵入したことが介護記録に記載されておりこれらが十分であったとは認めがたい。また○○は帰宅願望が強く、荷物をまとめたり、靴を探すなどの行動をしている。本件転落はクローゼット内の手の届かない場所にある荷物を取ろうとして引き出しを手前に引き、それに乗った際に転落したものと考えられる。このように帰宅願望が強く、そのための物探しをするような重症認知症患者の場合にはそのような行動をとることは十分予見しうるのであるから手荷物はむしろ手の届く低い場所に置くなどの配慮をすべきだった。○○を設置管理する被告にはこれらの転倒、転落を防止する義務に違反した過失がある。
   また、これらの問題行動に照らせば、施錠も身体拘束もしない居室内でのショートステイでの対応では限界があり、転倒、転落を十分防止し得ないことが予見されるのであるから、そのことを家族に告げて引取りを要請すべき義務があった。しかし被告は10月6日に1回目のショートステイ終了に際して上記問題行動を家族になんら説明せず、家族としてはそのような危険な行動をしているとは認識しないままに2回目のショートステイをさせて本件転落事故につながったのであるから、この点でも被告には過失がある。
 
第4 因果関係
 1 本件において○○は転落事故によって右大腿骨転子部を骨折し、手術したとしても自力歩行は困難な状態となった。従って、この損害と前期過失との間には相当因果関係がある。
 2 なお、本件ではその後○○は○○整形外科に入院中に急変して脳梗塞と推測される原因で死亡している。解剖されていないので死因を確定することはできず、本件骨折事故が○○の死亡に関係するのか否かは医学的には証明できない事柄である。よって原告らはその点について相手方の責任を追及するものではない。ただ○○が本件事故によって歩行不能の後遺障害を残した以上、その後に○○が死亡したことは、この後遺障害についての損害賠償請求を妨げるものではない。
 
第5 損害    660万円
 1 本件では骨折に対する手術が行われる前に死亡しているので、手術が成功したかどうか、成功したとしてどの程度まで回復し得たかどうか確定することは困難である。ただ訴外○○整形でも指摘されているようにリハビリをしたとしても自力歩行は困難でせいぜい杖歩行のレベルにしか回復しなかったと推測される。年齢及び重症認知症であることを考えればリハビリができるとは考えがたく、車椅子生活を余儀なくされた可能性も相当程度になる。これによるクオリティ・オブ・ライフの低下が後遺障害慰謝料として算定されるべきである。
 2 後遺症慰謝料  900万円(両原告相続分合計600万円)
   ○○は右大腿骨転子部を骨折し、手術したとしても自力歩行は困難な状態となった。この状態は、機能障害により1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すものに準じて考えることができ、後遺障害別等級表7級の10に該当する。この場合の慰謝料は、900万円が妥当である。
   そして原告両名はそれぞれ3分の1ずつ上記損害を相続した。
 3 弁護士費用    60万円
   本件不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては原告ら請求の損害額の10%が相当である。

コメント
  上記判決では原告の主張をほぼ認め440万円の損害賠償を命じた。被告は控訴せず判決は確定しました。重度の認知症の場合には介護事故を完全に防ぐのは難しいかもしれません。しかし具体的な問題行動を認識し、かつ当該施設で対応が困難と判断される場合には家族にそのことを告げて引き取りを求める義務があります。また施設に受け入れるに当たっては、当該施設で対応可能かについて慎重に検討しなければならず、対応が困難な場合にはそもそも受け入れるべきではないと考えられます。
  この判決については、介護保険施設に、手間のかかる認知症患者の受け入れを拒否する口実を与えることになると批判する向きもあるようです。しかしそのような議論は本末転倒です。重度の認知症患者であっても受け入れる能力のある介護保険施設は当然受け入れるべきです。悪質な介護業者が本判決を受け入れ拒否の口実に使う可能性はあるでしょうが、だからといって現実に介護事故が発生し被害を受けた者が司法的救済を受けられないということがあってはなりません。現実に起きた事故での被害者の救済と介護業者の受け入れの在り方は次元を異にする問題です。後者は行政の責任であって、認知症患者の行き場が無くなるなどという見方をすべきではありません。