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医療過誤事件について
1 医療記録の入手、調査検討の段階
- 医療過誤事件は、カルテなどの資料を集めて医学的見地から検討しないとそもそも責任追及可能かどうか分からないという特殊性があります。そこで、最初にカルテなどの医療記録を入手して調査検討することになります。
事前にカルテや画像記録が入手済みの場合にはそれをお預かりして検討します。
入手していない場合には、カルテなどの改竄を防止するため原則として証拠保全手続きをとります。 - 証拠保全手続きとは、証拠の廃棄や改竄を防止するために、そのような可能性がある場合に裁判所に申し立てて、あらかじめ証拠の写しを裁判所が記録として残しておく手続きです。予告しないである日突然裁判官と、申立代理人弁護士が病院を訪ねてカルテ等の提示を求めて、その場でコピーないしデジタルカメラで撮影する形で行われます。
裁判所の日程の関係で前後しますがこの手続きには1ヶ月半程度の期間を要します。 - カルテなどの医療記録を入手後翻訳が必要な場合があります。混み具合にもよりますが1ヶ月程度を要します。
- 医療記録の分析、医学文献の調査、類似判例の検討などを行い当該医療行為に過失があるかどうか検討します。必要に応じて専門医にコメントを求めます。事件の難易度にもよりますが、おおむね1~2ヶ月程度を要します。
すべての検討が終了後、依頼者に検討結果を説明すると共にその後の方針について助言します。検討には上記のように時間がかかりますので、依頼を受けてから検討結果を説明できるまでには4ヶ月程度を要します。事案が複雑な場合、助言を受けられる専門医を探すのに時間がかかる場合には半年以上の期間を要する場合もあります。
検討の結果、当該医療行為に過失が認められ、損害との因果関係も認められる可能性があると判断される場合には、次の責任追及の手続きに移ります。
ただ、これまでの経験では調査検討を依頼された案件のうちで責任追及の段階に進むのは3分の1程度です。およそ3分の1はやむを得ない経過と判断され、残りの3分の1は医療ミスが疑われる点はあるが過失や因果関係の証明が難しいと判断される場合です。後で述べますが、医療過誤訴訟では立証責任はすべて患者側に負わされており、立証の見通しが乏しい場合には提訴はできないのです。医療事故の調査は、この点を十分ご理解の上ご依頼ください。- なお、介護事故・保育事故で医学的事項が争点にならず、資料も入手済みで特段の調査を要しない場合は、調査検討の段階を経ずに受任することになります。
2 責任追及の段階
- 検討の結果当該医療行為に過失が認められ、損害との間に因果関係がある可能性が高いと判断される場合には責任追及の手続きに移ります。具体的には、まず事案の経過及び相手方医療機関の責任原因を明らかにし、損害賠償額も明示した催告書を相手方に送付します。相手方も医師会や医師賠償責任保険の保険会社、医師会や保険会社の顧問弁護士と協議する必要があるので、1ヶ月〜1ヶ月半程度先に回答期限を設定します。ただ通常はもう少し時間がほしいとの連絡がきて2~3ヶ月程度先に回答が来る場合が多いようです。
- 相手方から交渉で解決したいとの意向が示されれば、示談交渉を行います。示談交渉は2〜3ヶ月程度かかるのが普通です。最終段階では依頼者と十分協議します。例外的ですが、示談交渉の過程で相手方の反論に理由があり、当方の主張を維持できなくなる場合もあります。その場合は、その段階で責任追及を諦めざるを得ない場合もあります。事前にできるだけの調査を行っても、そのような場合があり得るということはご承知おきください。
- 相手方の回答が交渉の余地がないというものである時あるいは、示談での解決が困難と認められる場合には次に法的手続きに移ります。
損害賠償の裁判を起こすのが基本ですが、調停手続きやADRを勧める場合もあります。調停とは簡単に言えば裁判所における話し合いの手続きです。調停委員が双方の主張を聞いてお互いの解決を斡旋する手続きです。調停が不成立の場合には、裁判に移行します。例外的に、裁判での立証が難しいが責任が無いとは言い難いという場合に調停を行う場合もあります。その場合は、裁判に移行しないこともあります。ADRとは裁判外紛争解決機関のことで仙台弁護士会が設けています。 最終的に裁判になると、最初の半年位は双方が書面のやりとりをして、裁判での争点を整理する手続きが行われます。
争点整理が済むと証拠調べに入ります。証拠調べでは関与した医師や看護師の証人尋問が行われます。原告本人の尋問も行います。専門家の私的鑑定書を提出する場合もあります。これで裁判所が責任の有無について心証を形成できれば、その時点で和解を勧めるかそれが無理なら判決ということになります。
ただ、裁判所は医学には素人なので、医療過誤訴訟では鑑定手続きに移る場合も少なくありません。鑑定とは医学的事項について専門の医師を裁判所が鑑定人に選任して医学的判断を求める手続きです。鑑定結果如何は判決に重大な影響を与えます。裁判では判決よりも、和解で解決されるケースの方が遥かに多いのが実情です。判決は勝つか負けるかで中間的な判決というものはありません。ですから、お互い100%の自信が持てない場合には、中間的な解決として和解を希望する場合が少なくないからです。また、判決ですと不服があれば互いに高等裁判所に控訴することが可能なので、たとえ勝訴したとしても最終的な解決に時間がかかる場合があります。しかし、和解であればそれで裁判は終了ですから早期に解決できるメリットもあります。
- 判決が出された場合には不服があれば原告、被告とも高等裁判所に控訴することができます。
- なお、当事務所では刑事告訴や行政処分の申告などはお受けしておりません。
3 弁護士費用
- 調査検討段階の弁護士費用
医療過誤事件に限らず、事件を弁護士に依頼するには弁護士費用とそれ以外の必要経費(実費)がかかります。
医療過誤の場合には、資料を集めて医学的見地から専門的な検討を加えなければそもそも責任追及可能かどうか分からないという特殊性があるので、調査検討の段階が先行します。この段階では、着手金と必要経費のみで成功報酬はありません。
調査検討の着手金は、すでにカルテを入手済みの場合は20万円、証拠保全を伴う場合には30万円(消費税別)です。
着手金は一括払いが原則ですが、難しい場合には分割での支払に応じておりますのでご相談ください。 - 調査検討段階の必要経費
弁護士費用以外に、カルテの翻訳費用、協力医の助言を得た場合の謝礼、レントゲン写真のコピー代、交通費、裁判所の文書の送達費用などの実費がかかります。 責任追及段階の弁護士費用
責任追及段階の弁護士費用は、事件に着手する時にいただく着手金と事件が解決した時にいただく成功報酬の2段階になります。着手金の金額は、受任の範囲によって異なります。従来は裁判を含めて解決までの一切を受任範囲として着手金を決めてきましたが、今後はまず示談交渉・ADR・調停の範囲で受任し、それで解決できなかった場合に改めて裁判を受任するかどうかを判断するという方式にいたします。
このような方式とする理由は、一つには最初から裁判を含めて受任する場合には勝訴の可能性が私の心証の中で6~7割と判断されない限りお断りしていたのですが、それに至らないケースであっても示談交渉・ADR・調停によるある程度の解決が期待できそうだという場合には受任可能なようにしたいということです。そうすることによって、示談交渉・ADR・調停での受任の場合の着手金を減額することもできます。
二つ目には、近時、裁判所の医療事件に関する姿勢が大きく変化し患者側の勝訴率が20~25%に低下しているということがあります。このような傾向のもとでは勝訴の可能性が約8割と判断されないと裁判までお引き受けすることはできないということです。
示談交渉・ADR・調停の範囲で受任する場合の着手金は、20万円。それで解決できず裁判まで受任する場合は、追加の着手金を20万円とさせていただきます。
着手金は一括払いが原則ですが、難しい場合には分割での支払いに応じております。分割での支払いも難しいという場合は、例外的に着手金を減額して成功報酬を増額する方法もありますのでご相談ください。裁判を受任した場合は、解決まで何年かかろうと、また控訴されても追加着手金をいただくことはありません。事件が解決した場合には、得られた賠償金の15%+消費税が成功報酬となります。もちろん賠償金を得られなかった場合は、成功報酬はありません。また、場合によっては見舞金程度の賠償金しか取れない場合もありますが、その場合成功報酬を減額するか、あるいはいただかない場合もあります。
4 責任追及段階の必要経費
示談交渉の段階では、費用はかかりません。ADRの場合は、2万円+消費税の申立費用が、調停の場合は6,500円の申立費用がかかります。
裁判の場合は、請求金額に応じた印紙代がかかります。印紙代の金額は、例えば2,000万円の損害賠償請求の場合には8万円です。年金暮らし、あるいは母子家庭など資力に乏しい方の場合には、訴訟救助といって裁判終了までとりあえず納付を猶予してくれる制度もありますので、そのような場合はご相談ください。
また、裁判所の書類の送達などに要する費用として1万円を予納する必要があります。必ず必要というわけではありませんが、証拠として専門家の私的鑑定書を提出する場合は費用が30万円位かかります。
裁判所に鑑定を求める場合には50万円くらいの鑑定費用を裁判所に納めなければなりません。多くの場合は原告、被告の双方申請の形をとるので折半することになりますが、原告だけが申請する場合には全額負担しなければなりません。
5 被告(病院側)の弁護士費用
よくある質問に、仮に裁判で敗訴した場合被告の弁護士の弁護士費用を払わなければならないのかというものがあります。日本では、敗訴者負担制度はとられていませんのでその必要はありません。弁護士費用は原告被告それぞれが自己負担することになっています。ただ原告(被害者)については勝訴すれば弁護士費用のうち一定の金額を損害と認定してくれるので、その場合は被告(病院側)から弁護士費用の一部を支払ってもらえます。
暮らしの法律相談「医療過誤」(河北新聞)仙台弁護士会 弁護士 坂野 智憲
Q 昨年出産したのですが、生まれた子供は重度の脳性麻痺の状態です。陣痛促進剤を使用したせいではないかと疑っています。どうしたらよいのでしょうか。
陣痛促進剤は、本来は微弱陣痛や前期破水など医学的適応のある場合に限って使用されるべきものです。ところが日本では、夜間や休日の分娩を嫌って病院の都合で使用される場合も少なくないようです。陣痛促進剤は人為的に陣痛を起こしたり、陣痛を強めたりするものですから、時に過強陣痛を引き起こし胎児が低酸素状態になって重度の障害を残すこともあります。
Q やっぱり病院の責任なのですね。
あなたの場合、その可能性はありますが、可能性があるというだけで医師の責任を問えるわけではありません。法的責任を問うには、適応がないのに使用した、投与量が過剰であった、投与速度が速すぎた、投与中の分娩監視を怠った等具体的な注意義務違反(過失)を患者側で証明しなければなりません。
そのために不可欠なのが、いつどのような治療が行われたかが記載されているカルテや看護記録です。ですから、それを患者側で入手して検討することが不可欠です。
Q どうすればカルテなどを入手できるのですか。
現在はカルテ開示に応じる医療機関が多いのですが、医療過誤を強く疑うという場合には改竄や廃棄を防ぐために、カルテ開示ではなく裁判所に証拠保全を申し立てたほうがよいでしょう。カルテなどを入手したら、専門医の助言も得ながら治療内容を検討して過誤の有無を判断することになります。
医療行為によって意外な結果となった場合には、担当医師に納得のいくまで説明を求めてください。説明を受けてもどうしても納得できない場合には弁護士に相談することをお勧めします。ただし、医療過誤訴訟の経験のある弁護士は必ずしも多くはないので、相談する弁護士についてはインターネットなどを利用して情報を収集することも必要です。