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依頼にあたってご留意いただきたい事項
1 医療裁判の困難性
医療過誤訴訟の勝訴率は、最高裁の統計では、一般事件が約80%なのに対し20~25%程度(統計数字は年度によって異なります)にとどまるとされています。しかもこの勝訴には、一部勝訴も含まれますから実際に請求金額通りの解決がもたらされるのは2割以下と思われます。私の場合には事前に十分検討して提訴することにしているのでこれより勝訴率は高いのですが、それでも力及ばず敗訴することや敗訴的和解を強いられることもあります。
場合によっては裁判の経過の中でやむを得ない事故であったことが判明することもあります。その上裁判には時間がかかります。提訴後平均して3年弱かかっているのが現状です。このように事前の勝訴の見通しも立て難い困難な訴訟類型です。
このように勝訴率が低いのは、立証責任が全面的に患者側に負わされているからです。医療機関に過失のあった可能性、過失と損害の間に因果関係のある可能性があっても可能性だけでは勝てないのです。どんなに医療ミスが疑われる事情があっても、証拠がなければ事実認定されません。医学的事項についても患者側が立証できない限り負けるのです。
その上、裁判所はどうしても専門家である医療機関側の言い分を信用しがちです。立証手段についても相手が専門家ですから、他の専門家の協力を得ることはたやすいことです。これに対し、患者側に味方してくれる専門家はまだまだ少ないのが現状です。
2 裁判による解決の限界
訴訟では、最終的には損害賠償請求の形しかとれません。例えば、今の法律では判決で相手方に謝罪を命じることはできないとされています。懲罰的な慰謝料も今の法律では認められていません。復讐の目的で裁判を利用することも許されていません。相手方の責任を認定し、正当な金銭賠償を命じるというのが裁判による解決です。
また、真実究明ということが裁判の目的の一つになりますが、裁判所が自ら積極的に真実を明らかにする活動をしてくれるわけではありません。原告、被告それぞれの立証を見て、証拠上どちらの主張が裏付けられているかという観点から判断するだけです。ですから、裁判をすれば必ず真実が明らかになるというわけではありません。むしろ被害者側が主張する事実が真実であるとのお墨付きを与えることが、裁判所の役割だと理解した方がよいでしょう。
3 調査依頼をお断りする場合
医療過誤かどうかは、実際に行われた医療行為が、その当時の臨床医学の水準から見て標準的医療行為と評価されるかどうかという観点から判断されます。ですから、どんなに医師の態度が悪くとも、あるいは不親切であっても標準的医療がなされていれば過誤とは言えません。また、標準的医療行為とは評価されないとしても、標準的医療行為が行われたとしても結果は変わらなかったという場合にも、過失と結果との間に因果関係がないこととなり、やはり責任追及はできません。
調査の結果、相手方に責任がないと考えられる場合、あるいは責任が全くないわけではないものの証明が困難と思われる場合には、そのことを率直にご説明します。しかし、ともすればそのような説明は、あたかも弁護士が相手方の味方をしているかのように受け取られがちです。詳しく理由を述べますが、責任がないと思われれば率直にそのようにご説明します。ですから、最初から責任があるものと決めつけて、そのような説明は受け付けられない、責任追及が難しいというような調査結果は受け入れられないとお考えになるのであれば、ご依頼をお引き受けすることができませんので、ご了承ください。
4 損害賠償請求事件の依頼をお断りする場合
事故では、死亡あるいは重度の後遺症という悲惨な結果がもたらされる場合が少なくありません。本人や遺族がどうしてそのような事故が起きたのか真実を知らなければ、死の悲しみを乗り越えることも、後遺障害に立ち向かうこともできないはずです。ですから、事案の真相を究明するということが重要だと考えています。
次に、起きた事故を相手方や関係機関の教訓とし、二度と同じ過ちが繰り返されないよう警鐘を鳴らし、反省を求めることが重要と考えています。証拠に基づいて事案の真相を究明し、正当な賠償を求め、併せて今後の同種の事故の再発を防止することに貢献したいというのが当事務所の考えです。
裁判の経過の中で、やむを得ない事故であったことが判明する場合もあります。また、当初の見通しと異なり、敗訴あるいは不本意な和解という結果になることもあります。事前にどんなに慎重に検討し、準備をしたとしても予想外の展開になることが少なくありません。事件を引き受けるということは、勝訴の可能性があることを意味するだけで、勝訴を請け負うという意味ではありません。ですから「必ず勝ってくれなければ事件を依頼する意味がない」とお考えになるのであれば、ご依頼をお引き受けすることができませんので、ご了承ください。
なお、敗訴となれば賠償金を得られないどころか、相手方の主張が正しかったと公に認定されることを意味します。ですから弁護士は、基本的に依頼者を敗訴させることだけは避けたいと考えるものです。したがって、勝訴の見込み次第では示談による解決や和解を強くお勧めせざるを得ない場合も少なくありません。
5 辞任・解任について
訴訟を遂行するにあたっては、依頼者と弁護士との信頼関係がなければなりません。また、裁判は証拠調べが終わってしまってからでは、やり直すことが非常に難しくなります。ですから、委任後にもし弁護士に対する不審の念を抱いた場合には、ご遠慮なく、納得のゆくまで説明を求めてください。その上で、弁護士の説明に納得のいかない場合には、解任していただいて構いません。この場合、着手金は返還できません。
反対に、依頼者の方の考えがどうしても弁護士の考える方針と相容れないという場合、連絡しても返事を得られない場合、必要書類の取り付けをお願いしても協力していただけない場合など、信頼関係を維持できないと判断される場合は、弁護士の方から一方的に辞任する場合があります。依頼者に責任がない場合は、着手金を返還いたします。
途中で辞任や解任という事態にならないよう、事件の依頼にあたっては、分からない点や不明な点はご遠慮なく質問してください。弁護士の説明が納得できない場合は、依頼すべきではないと考えております。
6 情報の公開について
裁判は公開ですから、基本的に提訴の内容や判決は公開されます。特に、公的病院や大きな総合病院の場合にはマスコミが報道するのが一般的です。もっとも、新聞やテレビでは個人が特定されないような形で、何県あるいは何市の何歳代の男性あるいは女性という形での報道になります。当事務所では同様な医療過誤の防止という点を重要視していますので、個人が特定されない形でマスコミへの情報提供を行っています。もし、そのような情報提供もしてほしくないという場合は、事前にお申し出ください。