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最高裁医療過誤判例分析

医療慣行と薬剤の添付文書に関する判例2

(1)判決日等
H14.11.8
判時1809
P30~

(2)発生時期等
S61.2
19歳男性

(3)事例
医薬品添付文書に過敏症状と皮膚粘膜眼症候群の副作用がある旨記載された薬剤等を継続的に投与中の患者に副作用と疑われる発しん等の過敏症状の発生を認めた医師に同薬剤の投与についての過失がないとした原判決に違法があるとされた事例。

 心因性もうろう状態のAにフェノバール処方。
全身に湿疹がみられるなどの皮膚症状出現したが,処方継続約2ヶ月。全身に発赤等,両眼に角膜潰瘍等認められる。
右眼:光覚のみ
左眼:0.01(矯正不能)

(4)争点
フェノバールの投与に関する医師の注意義務違反の有無。

フェノバール:催眠・鎮静・抗けいれん剤
当時の添付文書には,「まれに皮膚粘膜眼症候群があらわれることがあるので,観察を十分に十分に行い,このような症状があらわれた場合には,投与を中止すること」との記載あり。

(5)内容
精神科医は,向精神薬を治療に用いる場合において,その使用する向精神薬の副作用については,常にこれを念頭において治療に当たるべきであり,向精神薬の副作用についての医療上の知見については,その最新の添付文書を確認し,必要に応じて文献を参照するなど,当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務がある。
過敏症状の発生から直ちに本件症候群の発症や失明の結果まで予見することが可能であったということはできないとしても,当時の医学的知見において,過敏症状が本件添付文書に記載された本件症候群へ移行することが予想し得たものとすれば,本件医師らは,過敏症状の発生を認めたのであるから,十分な経過観察を行い,過敏症状又は皮膚症状の軽快が認められないときは,本件薬剤の投与を中止して経過を観察するなど,本件症候群の発生を予見,回避すべき義務を負っていた。

(6)ポイント
最判H8.1.23を踏襲し,添付文書の記載が医師の注意義務の基準となることを確認すると共に,薬剤を用いる医師には,最新の添付文書を確認し,同文書に記載された副作用については,必要に応じて文献を参照するなどして,当該医師の置かれた状況の下で可能な範囲で,その症状,原因等についての情報を収集すべき義務がある旨を判示し,これらの医療上の知見を医師の注意義務の判断の基準とすべき旨を示したもの。