(1)判決日等
H18.4.18
判時1933
P80~
(2)発生時期等
H3.2
男性
(3)事例
冠状動脈バイパス手術を受けた患者が術後に腸管壊死となって死亡した場合において担当医師に腸管壊死が発生している可能性が高いと診断し直ちに開腹手術を実施すべき注意義務を怠った過失があるとされた事例。
冠状動脈バイパス手術
2日後 頻繁に腹痛訴える
AM8:00 腸閉塞と判断
対処するも効果なし
夜 開腹手術
大腸等に広範な壊死認める
翌日 急性腎不全等により死亡
(4)争点
腸管壊死を疑って直ちに開腹手術を実施すべき注意義務を怠った過失の有無。
(5)内容
冠状動脈バイパス手術を受けた患者が術後に腸管壊死となって死亡した場合において,①当該患者は,腹痛を訴え続け,鎮痛剤を投与されてもその腹痛が強くなるとともに,高度のアシドーシスを示し,腸管のぜん動こう進薬を投与されても腸管閉塞の症状が改善されない状況にあったこと,②当時の医学的知見では,患者が上記のような状況にあるときには,腸管壊死の発生が高い確率で考えられ,腸管壊死であるときには,直ちに開腹手術を実施し,壊死部分を切除しなければ,救命の余地はないとされていたこと,③当該患者は,開腹手術の実施によってかえって生命の危険が高まるために同手術の実施を避けることが相当といえるような状況にはなかったこと,④当該患者の症状は次第に悪化し,経過観察によって改善を見込める状態にはなかったことなどの事情のもとでは,担当医師に腸管壊死が発生している可能性が高いと診断し,直ちに開腹手術を実施し,腸管に壊死部分があればこれを切除すべき注意義務を怠った過失がある。
(6)ポイント
事例判断であるが,術後の管理における医師の裁量の限界を示すものとして意義を有する。