相手方 地方自治体(公立病院における医療過誤)
平成29年4月17日 示談交渉により和解成立。
(1)事案の概要
患者は30代女性。
乳児期先天性水頭症のためV-Pシャント術(注:脳室-腹腔シャント)を受け,その後も適宜シャント再建術を受けていた。
平成27年5月に腹痛のため,相手方病院を受診。CTにてシャント腹側チューブ先端を内包する嚢胞が認められた。脳室拡大所見もあり,シャント不全にて入院。手術によりシャントチューブを引抜き外ドレナージとしたところ,腹部膨隆は消失。
翌日,外部ドレナージとしたチューブの接続部が外れ,医師はこれを結紮。その後頭痛等の症状が見られ,意識障害が進行し,呼吸停止となる。
6月に撮影されたCTでは全脳虚血疑い,以降遷延性意識障害(植物状態)。
10月5日V-Pシャント再建するも,同月20日には感染が疑われ,外部ドレナージとする。同月23日にくも膜下出血となり,同月26日死亡。
(2)主張
①手技選択の誤り
患者は腹痛を訴えて相手方病院を受診し,CTの結果腹部に嚢胞が認められた。この場合行うべき治療は嚢胞を開窓して内部の髄液を排出することである。それによって嚢胞が消失し,シャントチューブから髄液が排出されていることが確認できれば治療は終了である。シャントチューブを引き抜くことは全く必要がない。もし,シャントチューブを引き抜き,これによって感染した場合にはシャントを再建しなくてはならないこととなるため,そのリスクを考慮して,一般的な脳神経外科医はできるだけシャントチューブは留置したまま嚢胞の治療を行う。
したがって,相手方病院担当医には腹腔側シャントチューブを抜去した過失がある。
②中枢側でシャントチューブを結紮した過失
もし上記①の義務に反して腹腔側のシャントチューブを引き抜くのであれば,専用キットを用いて外部ドレナージを行うべきであった。本件では専用キットではなく,シャントチューブを流用しているが,シャントチューブと外部回路をつなぐ専用の器具は存在せず,寝返り程度の体動で容易に接続部が外れて髄液が流出する危険性が高い。実際にも外部ドレナージとしていたチューブの接続部が外れたため,髄液がベッド上に漏出し,担当医は,中枢側でチューブを結紮した。水頭症の患者にこのような処置をすれば,髄液を流出できず次第に髄液が貯留して脳圧が亢進する。
以上のことから,抜去したシャントチューブを流用して外部ドレナージを行ったために接続部が外れて髄液が漏出し,それに対し中枢側でチューブを結紮したために脳圧亢進を来して呼吸停止させた過失がある。
③ 頭痛に対する適切な処置を怠った過失
上記②の結紮後,患者にはふらつきや頭痛が認められた。これらは髄液が脳内に過剰に貯留し,脳幹を圧迫することで生じる水頭症の典型的な症状である。したがって,これらの症状から脳圧亢進の可能性を考えて,直ちに結紮部分を開放し,その後速やかに外部ドレナージを行うべき義務があり,これを怠った過失がある。
(3)争点
①シャント不全に対する処置として嚢胞を開窓して内部の髄液を排出すれば足りたか,シャントチューブを抜去する必要性の有無,②シャントチューブを結紮することで脳圧亢進を来したかどうか,③結紮後の患者の症状から,髄液が脳内に過剰に貯留している可能性を考え,結紮部分を開放し,外部ドレナージをすべき義務の有無
(4)結果
5000万円で示談成立。