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最高裁医療過誤判例分析

医療水準に関する判例1 未熟児が未熟児網膜症により失明した事例

(1)判決日等
H4.6.8
判時1450
P70~
破棄自判

(2)発生時期等
S47.11
新生児 男性

(3)事例 
昭和47年9月に出生した未熟児が未熟児網膜症により失明したことを理由とする慰謝料の請求について担当の眼科医師に注意義務違反を認めた判断が違法とされた事例。

S47.9 出生(未熟児)
S47.11.10 退院
S47.11.28 眼科受診
(診断)異常なし
    心配なら半年後くらいに来院するよう指示
S48.3.12 眼科再受診
(診断)白内障
 児が動くために眼底の所見を得ることができなかった
S48.5 別病院受診
    未熟児網膜症に罹患していること,治癒しないことが判明

(4)争点
医師が負うべき注意義務の内容。

(5)内容
人の生命及び健康を管理する業務に従事する者は,その業務の性質に照らし,危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くすことを要求されるが,その注意義務の基準となるべきものは,一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であり,医師は,患者との特別の合意がない限り,その医療水準を超えた医療行為を前提とした緻密で真摯かつ誠実な医療を尽くすべき注意義務まで負うものではなく,その違反を理由とする債務不履行責任,不法行為責任を負うことはない。
 本症に対する光凝固法は,当時の医療水準としてその治療法としての有効性が確立され,その知見が普及定着していなかったし,本症には他に有効な治療法もなかったというのであり,また,治療についての特別な合意をしたとの主張立証もないのであるから,医師には,本症に対する有効な治療法の存在を前提とする緻密で真摯かつ誠実な医療を尽くすべき注意義務はなかった。

(6)ポイント等 
昭和47年当時は,光凝固法は未だ医療水準として確立していなかったというのが判例。