(1)判決日等
H7.6.9
判タ 883
P92~
破棄差戻
(2)発生時期等
S50.3
新生児 男性
(3)事例
一 診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準。
二 昭和49年12月に出生した未熟児が未熟児網膜症に罹患した場合につきその診療に当たった医療機関に当時の医療水準を前提とした注意義務違反があるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例。
S49.12.11 出生(未熟児)
S49.12.27 診察
眼底検査異常なし
次回検診の要なし
S50.2.20 退院
S50.3.28 診察
眼底検査異常なし
S50.4.9 診察
眼底検査異常あり
別病院紹介
S50.4.16 紹介先受診
未熟児網膜症瘢痕期3度
(4)争点
診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準。
(当時,光凝固法は治療法として確立していたか。)
(5)内容
ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり,右の事情を捨象して,すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。そして,新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており,当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には,特段の事情が存しない限り,右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである。そこで,当該医療機関としてはその履行補助者である医師等に右知見を獲得させておくべきであって,仮に履行補助者である医師等が右知見を有しなかったために,右医療機関が右治療法を実施せず,または実施可能な他の医療機関に転医をさせるなど適切な措置を採らなかったために損害を与えた場合には,当該医療機関は,診療契約に基づく債務不履行責任を負うものというべきである。
また新規の治療法実施のための技術・設備等についても同様であって,当該医療機関が予算上の制約等の事情によりその実施のための技術・設備等を有しない場合には,右医療機関は,これを有する他の医療機関に転医をさせるなど適切な措置を採るべき義務がある。
本件医療機関の性格,周辺の各種医療機関における光凝固法に関する知見の普及の程度等の諸般の事情について十分に検討することなくしては,本件医療機関に要求される医療水準を判断することはできない。
(6)ポイント等
最高裁として,初めて,診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準の判断要素及び判断枠組みを明らかにしたもの。