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介護事故とは
1 介護事故
介護保健法施行後、医療法人が、介護保険施設(介護老人福祉施設、介護老人保健施設)を開設したり、居宅療養介護や短期入所療養介護などの居宅サービス事業を行うケースが増加しています。それに伴って施設内での介護事故や訪問介護の際の事故も増加しています。
特に多いのは、歩行時の転倒、ベットから車椅子への移乗の際の落下、入浴介助時の事故、食事介助時の誤嚥です。高齢者で、かつ要介護者であるから必要な注意義務を尽くしたとしても発生を防止できない場合もあります。しかし、施設の構造上の不備や職員に対する指導・訓練の不備、医療機関との連携の不備によるものも少なくありません。介護事故防止のためのマニュアル整備、職員に対する指導監督をより徹底する必要があります。
厚生労働省も「特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン」を作成するなどして事故防止を図っていますが、介護の現場で徹底されているとは言い難いのが現状です。
介護事故と法的責任
1 介護事故とは
介護事故について明確な定義はないが、「介護の提供過程で、利用者に対し何らかの不利益な結果を与えた場合または与える危険のあった場合」であるとされる。
介護事故の類型として、
(1)転倒
(2)ベッドからの転落
(3)介助中のあざ・出血・やけど、
(4)誤嚥・誤飲、
(5)薬の誤配等
がある。
特に多いのは、歩行時の転倒、ベットから車椅子への移乗の際の落下で、全体の7~8割を占める。入浴介助時の事故、食事介助時の誤嚥も1割未満ではあるが比較的頻度は高い。
介護保健法施行後、医療法人が、介護保険施設(介護老人福祉施設、介護老人保健施設)を開設したり、居宅療養介護や短期入所療養介護などの居宅サービス事業を行うケースが増加している。それに伴って、施設内での介護事故や訪問介護の際の事故も増加傾向にある。高齢者でかつ要介護者である場合、必要な注意義務を尽くしたとしても発生を防止できない場合もある。しかし、施設の構造上の不備や職員に対する指導・訓練の不備、医療機関との連携の不備によるものも少なくない。
2 責任原因
介護事故が起きたからといって、施設にただちに法的責任が発生するわけではない。債務不履行ないし不法行為の要件に該当する場合にはじめて法的責任が生じる。
介護施設の設置者と入所者(利用者)との間には、介護サービス提供についての準委任契約が存在する。その契約に基づく付随的債務として、介護施設の設置者は安全配慮義務を負う。これは、介護サービスの提供過程で利用者の心身の安全を確保するよう配慮する義務である。介護施設の職員がこの安全配慮義務に違反し、それによって利用者に損害が発生した場合に、使用者である介護施設の設置者が債務不履行責任を負うことになる(民法415条)。
債務不履行責任とは別に、被用者である介護施設職員の故意・過失(注意義務違反)によって利用者に損害が発生した場合は、介護施設職員が不法行為責任を負う(民法709条)とともに、使用者である介護施設の設置者も不法行為責任(使用者責任-民法715条)を負う。
また、介護施設職員に故意・過失がない場合でも、施設の物的設備に瑕疵があったような場合(例えば階段の手すりが破損していた場合)には、土地の工作物の設置または保存の瑕疵による不法行為責任(民法717条)が生じる。
安全配慮義務違反と過失(注意義務違反)はほぼ同じ内容であり、債務不履行責任と不法行為責任の違いは時効期間である(前者は10年、後者は3年)。
3 「安全配慮義務違反」「注意義務違反」
問題は「安全配慮義務違反」ないし「注意義務違反」の中身であるが、抽象的に言うならば「介護の実践における介護水準に照らして要求される注意義務を怠った場合」である。何が介護の実践における介護水準かは、それぞれの介護行為の性質(例えば、危険性の程度)、利用者の状況(例えば痴呆の程度)など様々な要因を考慮した総合判断から導かれるものである。
したがって、単に介護施設が決めたマニュアルや慣行に従ったというだけで過失が否定されるわけではないし、逆に利用者が想定外の行動を取った場合などは過失が否定される場合もある。
医療過誤の場合の注意義務違反も「臨床医療の実践における医療水準に照らして要求される注意義務を怠った場合」とされる。医療行為については、近時各学会においてそれぞれの疾患について診療ガイドラインが作成されており、医療水準を考える場合このガイドラインが参考とされる場合が多い。ところが、介護に関してはそれぞれの介護行為についてこのような具体的なガイドラインは作成されておらず、文献も少ない。そのため要求すべき介護水準を決めることは難しく、過去の類似事件の判例を参考にするしかないのが現状である。
(例1)介護老人保健施設入所後、摂食不良が原因で半年あまりで体重が5kg以上減少。むくみやふらつきなどの症状も現れたが、病院を受診させず、発熱で病院に入院。入院後1週間で、誤嚥性肺炎で死亡。
(例2)嚥下機能の低下した入所者について、食事介助方法および食後の監視が不適切であった。食事介護直後に、上気道閉塞し低酸素脳症となる。
リスクマメジメント
1 リスクマネジメントの実際
リスク情報収集→リスク分析→リスク対策立案→実行→フィードバック
2 転倒・転落(7~8割)
●リスク情報
・過去の転倒歴・回数(1ヶ月以内、1~3ヶ月以内)
・徘徊の有無
・ めまいの有無
・ 抗不安薬、抗うつ薬服用の有無
・ 自宅での介助状況の確認
・ 排泄の頻度
・ コミュニケーション能力
●転倒・転落アセスメント・スコアシートの活用
・危険度Ⅰ~Ⅲに分類
●リスク対策
・危険度Ⅰ~Ⅱ:ベッドの高さ・ストッパーの固定の確認やベッド柵の確認、ベッド周囲の障害物の確認・整理
・危険度Ⅲ:ベッド周囲にマット等の打撲のショックを和らげる工夫。必要時は、床しきマットにする。車椅子乗車時の見守り。
◉参考:介護事故の実態と未然防止に関する調査研究(2000年6月6日 国民生活センター)
損害保険会社から提供を受けた介護事故例223 件中143 件(64.1%)が転倒事故であり、転倒事故の多さがうかがえる。例えば、車いすからの転倒事故をみると「職員が車いすのベルトを締め忘れたこと」、「職員が目を離したこと」の責任が問われている。
【立った姿勢から転倒した事故について、施設側の責任とされた理由】
・ 精神的に不安定な状態であったのに、施設側の対応不十分。
・ 床に水がこぼれていた。床が歪んでいた。施設の管理不備。
・ 徘徊癖のあることを把握しながら、誰も見ていなかった。
・ 数日前にも転倒し負傷。老人性痴呆症もある。施設の管理不十分。
・ 介助の求めに応じなかったため1 人で立った。介助がなかった点。
・ 職員と入所者が接触し、転倒、骨折させる。職員の過失。
・ 安全確保義務違反。常時見ているべき重度痴呆の人を見ていなかった。
・ 歩行が 1 人でできない人が歩行訓練中に、転倒、骨折、入院。
・ 畳とフロアーの段差(5cm)に、つまずき転倒。防止策を講じなかった。
3 誤嚥(1割未満)
●リスク情報
・覚醒の程度:向精神薬使用の有無(嚥下機能低下、せん妄、低血圧等の副作用)
・ 良肢位の保持(きちんと座位をとれるか)
・ 嚥下機能:アセスメントの結果不安な場合は嚥下確認まで見守る
・ 食思:食べ残しを放置しない
・ 誤嚥防止アセスメントの活用
4 送迎時の事故
デイサービスの送迎時の事故が多い。手順のマニュアル化。移動環境の改善。
5 褥瘡
褥瘡リスク・アセスメントの活用
介護事故が起きた場合の対応
・ 窓口の統一
・ 重大事故の場合は施設長が直接対応
・ 救急対応
・ 家族への連絡・情報提供
●謝罪の要否
・ 事故報告書の書き方
●推測を交えない
●状況を図示する
●箇条書きにする
●5W1Hを明確に
紛争解決の実際
・ 証拠保全
・ 示談交渉
・ 調停
・ ADR
・ 訴訟