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最高裁医療過誤判例分析

説明義務に関する判例2

(1)判決日等 
H13.11.27
判時1769
P56~

(2)発生時期等
H3.2
41歳女性

(3)事例
乳がんの手術に当たり,当時医療水準として未確立であった乳房温存療法について医師の知る範囲で説明すべき診療契約上の義務があるとされた事例。

 Aは乳房を残すことを希望
(説明内容)
胸筋温存乳房切除術適応である。乳房を残す方法も行われているが,この方法については,現在まで正確には分かっておらず,放射線で黒くなったり,再手術を行わなければならなくなることがある。
Aに対し,胸筋温存乳房切除手術を施行。

(4)争点
実施予定の医療行為は医療水準として確立しているが,代替的医療行為は未確立である場合,代替的医療行為について医師は説明義務を負うか,負うとしてどの程度にまで説明すべきか。

(当時としては未確立な療法(術式)とされていた乳房温存療法に付いてまで選択可能な他の療法(術式)として説明義務があったか否か,あるとしてどの程度にまで説明することが要求されるのか。)

(5)内容
医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務がある。
乳がんの手術についてみれば,疾患が乳がんであること,その進行程度,乳がんの性質,実施予定の手術内容の他,もし他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などが説明義務の対象となる。
未確立な療法について,当該療法が少なからぬ医療機関において実施されており,相当数の実施例があり,これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては,患者が当該療法の適応である可能性があり,かつ,患者が当該療法の自己への適応の有無,実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては,たとえ医師自身が当該療法について消極的な評価をしており,自らはそれを実施する意思を有していないときであっても,なお,患者に対して,医師の知っている範囲で,当該療法の内容,適応可能性やそれを受けた場合の利害得失,当該療法を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある。
Aに対し,乳房温存療法の適応可能性のあること及び乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を説明しなかった点で,診療契約上の説明を尽くしたものとは言い難い。

(6)ポイント
患者の自己決定権を重視し,未確立の療法についても医師の知見を有する範囲に限定しながらも,説明義務があることを示した重要新判例。