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医療過誤解決事例報告

定期検診において検診結果の取り違えによって肺癌発見が遅れ死亡した事案

仙台地裁平成17年ワ第46号
被告 財団法人宮城県労働衛生協会
平成18年1月26日判決(確定) 請求額8200万円に対し7500万円認容
事案の概要
患者は平成14年5月に職場の定期健康診断を受けた。医師は胸部レントゲン写真上異常陰影を指摘したが、検診結果を入力する際に同姓の別人と取り違えて入力してしまい検査結果は本人に伝わらなかった。翌年5月の定期健康診断で胸部の異常陰影を発見され、精密検査を受けたが既に遠隔転移があり手術不能の状態であった。その後抗ガン剤の治療を受けたが平成16年6月に死亡した。

争点
平成14年5月の時点で肺癌が発見されていた場合の治癒可能性。
被告はこの時点で既にリンパ節転移がありT1N1M0であり臨床病期はⅡAである。この場合の5年生存率は34%~47%であり治癒可能性はなく3~4年の延命が可能であったに過ぎないと主張。
原告は①平成14年5月のレントゲン写真(間接撮影)上リンパ節転移の所見は見られていないこと、②Ⅰ期の非小細胞ガンの無治療例(放射線治療、化学療法施工例を含む)の平均生存月数は17ヶ月~25ヶ月とされているところ、患者が死亡したのは平成14年5月から26ヶ月後であってⅠ期の平均的予後以上生存していること、③そもそもリンパ節転移はCTないしMRIで短径1㎝以上の場合に転移陽性と診断するとされていること等から患者の病期はⅠAでありその5年生存率は72%であるから手術により治癒した高度の蓋然性があると主張。

裁判所の判断
間接撮影のレントゲン写真ではリンパ節自体は写らないこと、被告の主張する肺門部の肥大は明らかなものとは言えないこと、平成15年5月の時点では両肺転移が認められるがリンパ節転移があってからそのような状態になるまでどの位の時間がかかるかについては何ら立証されていないこと等からすれば平成14年の検査時点で患者の肺癌がリンパ節に転移していたことを認めるに足りる証拠はないとして被告の主張を排斥した。

コメント
本件は間接撮影のレントゲン写真しか存在せず、そもそもリンパ節など写らない(普通のレントゲンでもよほど大きくなければ写らないが)のであり被告の主張はリンパ節転移の一般的可能性を言うに等しいものであった。このような場合はあったともなかっとも断定はできないので見落とし(入力ミス)から実際の発見までの期間が重要になる。本件は1年間あった事案なので裁判所も勝たせやすかったのであろうがこれが半年だったらどうなっていたか分からない。Ⅰ期の無治療例の平均生存期間内に死亡している場合にはそのことを指摘して、それでもリンパ節転移があるというのなら立証してみろと迫るやり方が有効と思われた。