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最高裁医療過誤判例分析

説明義務に関する判例4

(1)判決日等 
H18.10.27
判時1951
P59~

(2)発生時期等 
H8.1
男性

(3)事例
未破裂脳動脈瘤の存在が確認された患者がコイル塞栓術を受けたところ術中にコイルが瘤外に逸脱するなどして脳梗塞が生じ死亡した場合において担当医師に説明義務違反がないとした原審の判断に違法があるとされた事例。

動脈瘤最大径約7.9㎜
(説明内容)
動脈瘤が開頭手術をするのが困難な場所に位置しており,開頭手術は危険なので,コイル塞栓術を試してみてはどうか。
コイル塞栓術を十数例実施しているが全て成功している。
うまくいかないときは無理をせず,直ちにコイルを回収してまた新たに方法を考える。
コイル塞栓術には術中を含め脳梗塞等の合併症の危険があり,合併症により死に至る頻度が2~3%とされている。

(4)争点
術中,コイルが瘤内から逸脱。
開頭手術を行うも,コイル完全には除去できず。
逸脱したコイルによって生じた左中大脳動脈の血流障害に起因する脳梗塞により死亡。
コイル塞栓術の実施に当たっての説明義務違反の有無。

(5)内容
医師が患者に予防的な療法(術式)を実施するに当たって,医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には,その中のある療法(術式)を受けるという選択肢と共に,いずれの療法(術式)も受けずに保存的に経過を見るという選択肢も存在し,そのいずれを選択するかは,患者自身の生き方や生活の質にも関わるものでもあるし,また,上記選択をするための時間的な余裕もあることから,患者がいずれの選択肢を選択するかにつき熟慮の上判断することができるように,医師は各療法(術式)の違いや経過観察も含めた各選択肢の利害得失について解りやすく説明することが求められる。
担当医師らは,開頭手術では,治療中に神経等を損傷する可能性があるが,治療中に動脈瘤が破裂した場合にはコイル塞栓術の場合よりも対処がしやすいのに対して,コイル塞栓術では,身体に加わる侵襲が少なく,開頭手術のように治療中に神経等を損傷する可能性も少ないが,動脈の塞栓が生じて脳梗塞を発生させる場合があるほか,動脈瘤が破裂した場合には救命が困難であるという問題もあり,このような場合にはいずれにせよ開頭手術が必要になるという知見を有していたことがうかがわれ,また,そのような知見は,担当医師らが当然に有すべき知見であったから,Aに対して解りやすく説明する義務があった。
また,開頭手術の危険性とコイル塞栓術の危険性を比較検討できるように,Aに対して具体的に説明する義務があった。
したがって,担当医師の説明では説明義務を尽くしたということはできない。

(6)ポイント
予防的な療法を実施する場合の医師の説明義務について,相当に高い水準を求める姿勢を示すもの。
但し,原審で審理が尽くされた結果やはり説明義務違反はなかったという結論に至ると言うこともあり得る中間的な判断にすぎない。